ISBN:4061822675 新書 西尾 維新 講談社 2002/08 ¥819

講談社ノベルス創刊20周年記念密室本
「紫木一姫(ゆかりきいちひめ)って生徒を学園から救い出すのが、今回のあたしのお仕事」
「救い出すって……まるで学園がその娘を拘禁してるみたいな言い方ですね」
人類最強の請負人、哀川潤から舞い込んだ奇妙な依頼に従って私立澄百合(すみゆり)学園、またの名を《首吊高校(クビツリハイスクール)》に潜入した「ぼく」こと“戯言遣い・いーちゃん”は恐るべき殺戮の嵐に巻き込まれる――。

冒頭から飛ばしてくれる戯言シリーズ第3弾。

一姫ちゃん、ファン多いみたいですね。

前2作とは打って変わったアクション路線。
いやしかし、これはれっきとした密室本。

度肝を抜く超展開にあなたは付いて来られますか?
個性的なキャラクターが続々と登場する今作は、ジェットコースター的に楽しめる事請け合いです。
ISBN:4061822500 新書 西尾 維新 講談社 2002/05 ¥1,029

鴉の濡れ羽島で起こった密室殺人事件から2週間。
「ぼく」こと戯言遣い・いーちゃんが、級友・葵井巫女子とその仲間たちと送る日常は、人間失格・零崎人識との出会いによって脆く崩れ去っていく…。

はい!実は大人気零崎人識くんのデビュー作ですね!!
人間失格・・・確かに_| ̄|○

この作品は前作以上にタイトルに意味があります。
クビシメロ+ロマンチストそしてx/y
非常に悲しい謎解きですね・・・。

思ってもみなかった展開に驚かされること必至。
複雑な人間関係、そして人の心の強さ・脆さ。
いーちゃんの心の闇も垣間見えます。

あまりの急激ショック展開に呆然としつつ
読む事を止められない。

戯言シリーズ2作目にして真の姿を覗かせている風な今作。

新感覚をお手元に・・・!
ISBN:4198616515 単行本 宮部 みゆき 徳間書店 2003/03/31 ¥1,680

異次元の世界テーラから地球へと、死刑囚たちが逃げ出した。
彼らは地球人の夢の中に巣食い、やがて体を乗っ取ってしまう。
ドリームバスターは、その脱走犯を捕らえテーラへ連れ戻すことを生業とする。
地球の民を救うため 脱走犯の首にかかった賞金を手に入れるため、16歳のドリームバスター、シェンと屈強な師匠マエストロの名コンビが活躍する、アクションファンタジー巨編第2弾。

淋しいあなたに、小さな勇気を贈ります。

今回のD・P(ドリーミング・パーソン)の1人は20歳のOL、村野理恵子。
彼女の不安とシェンの不安がシンクロし、シェンの心が乱されます。
彼が抱えている苦悩が見え隠れする今作は、少しほろ苦い。

でも、まだ16歳なのに彼は強い。
6歳の頃から、8歳でマエストロに拾われるまで、たった1人で這う様にして生きてきた現実があるから、彼の心は並みの16歳とは違うんですね。

でも。
お願いだから歓楽街は出入りしないで(笑)
最年少ドリームバスター、そして実はかなりの美少年のシェンは歓楽街で働く女性達の中にもファンは多いらしい。
でも、シェンには常に硬派でいて欲しいのは私だけですか。
というより私は、シェンには理恵子が合うと思うんです。
まぁ、生きている世界が違うから無理な話かもしれませんが・・・。
とりあえず、理恵子の再登場には期待しています。

リップ、そしてスピナー。
謎は深まる一方です。次巻が待ち遠しい。

黒蜘蛛島

2004年9月7日 読書
ISBN:433407541X 新書 田中 芳樹 光文社 2003/11/01 ¥820

カナダ・バンクーバーで日本人男女の変死体が発見された。
とある理由で捜査をかってでたのが、完璧な美を誇る薬師寺涼子警視(27)。
忠実な部下・泉田準一郎警部補(33)とともにバンクーバーに乗り込み、縦横無尽の大捜査!?

ハリウッドの帝王・グレゴリー・キャノン二世から、彼の所有する黒蜘蛛島に招待された涼子達が知った、恐ろしい秘密とは・・・?

常勝不敗を誇る魔女王・薬師寺涼子が下僕(?)を従え、妖しの島で問答無用の大活躍!!

益々勢いに乗る涼子さん。
圧倒的な美・知識を誇り、武道も嗜むまさに万能女性。
絶対に負けるケンカはしない。

面白かったのは、総領事にしかけた罠。
ソファーに座る泉田さんの膝の上に座る涼子さん。
保守的で女性に偏見を持った人物は「(年下の)女性が上司で(年上の)男性が部下」という関係など想像も出来ず・・・
『上司にセクハラを受けている美人部下』の出来あがり(笑)
この後、捜査に非協力的な総領事に涼子さんの鉄槌が・・・ご愁傷様です。

涼子&泉田コンビ、益々絶好調のようです。
ISBN:4061822330 新書 西尾 維新 講談社 2002/02 ¥1,029

絶海の孤島に隠れ棲む財閥令嬢が“科学・絵画・料理・占術・工学”、5人の「天才」女性を招待した瞬間、“孤島×密室×首なし死体”の連鎖がスタートする!
工学の天才、「青色サヴァン」こと玖渚友(くなぎさとも)(♀)とその冴えない友人、「戯言遣い(ざれごとづかい)」」いーちゃん(♂)は、「天才」の凶行を“証明終了(QED)”できるのか?
人気「戯言シリーズ」第一弾!!第23回メフィスト賞受賞作。

はい。これはおもしろいです。
本格推理と思わせながら、全くの新感覚。
若い作家さんの作品だけに、今までになかった新鮮さです!
あらゆるコンピューターを使いこなす天才、友のキャラクターとしての魅力もさることながら、「ぼく」こと”いーちゃん”の心の葛藤(戯言)も、共感出来る部分が多い。

ミステリーファンの方々、新時代の推理小説を読んでみたくはないですか?

ぜひとも続きを読みたくなる、そんなシリーズです。

魔天楼

2004年9月6日 読書
ISBN:4062633469 文庫 田中 芳樹 講談社 1996/10 ¥550

父親は元警視庁幹部、東大・法卒、27歳の超美人&ナイスバディ警視・薬師寺涼子。
唯一の欠点は「ドラキュラもよけて通る」性格の悪さ。
通称「ドラよけお涼」!!
下僕部下である、33歳の泉田警部補を引き連れ、挑むは世にも奇怪な事件。
東京・湾岸副都心の巨大な複合ビルで巻き起こる、この事件の真相は!?

正義とはあたしが勝つことよ!

まず、この作品の魅力は涼子さん。
自分の美しさを自覚し、スーパーモデル並のスタイル、特に足を堂々と見せびらかす。この足を隠すなんて、人類の損失だと考える彼女は、イヤミを通り越して、もう感嘆するしかないですね。
その涼子さんにこき使われながらも、しっかりと期待に応える働きをする泉田さん。いい仕事してます。

こんな上司と部下、いいなぁ(もちろん上司の視点から見て)

涼子さんの「我が道を行く」姿勢は、読んでいて実にスカッとします。
読みながら、ストレス発散出来る事間違いなしです。

表紙、挿絵は「吸血姫美夕」で有名な垣野内成美さん。
美しい涼子さんをぜひその目でお確かめ下さい。

百器徒然袋 風

2004年7月27日 読書
ISBN:4061823795 新書 京極 夏彦 講談社 2004/07/06 ¥1,365

探偵に調査も捜査も推理も必要無し。
事実はすべて、その目に視える!!
眉目秀麗。腕力最強。天下無敵の薔薇十字探偵・榎木津礼二郎。

彼の「下僕」達に仕掛けられた巧妙かつ卑怯な罠。
榎木津は「神」の鉄槌を下す事が出来るのか?
破天荒な探偵が縦横無尽に大活躍!?

「五徳猫」「雲外鏡」「面霊気」の3編。

久々に榎さんメインの短編集(というより長編3本かも)
あらすじを読むと軽い読み物に思えるかもしれませんが
とんでもない!!

おかしいのは榎さんだけです。
(ま、他のみんなも一癖ある連中ばかりではあるんですが)

でも、そんな榎さんが好きです。

榎さんメインのわりに出番は少ない気がするのは、本当に榎さんが中心に物語が進んでいったら、全然わけのわからない話になってしまうからでしょうね・・・。

全編があっっと驚く凄い真相。
読んでいる最中は謎だらけ。
読み終わったら爽快気分になれる。そんな「探偵小説」です。

榎さんの「下僕」達が益々哀れなピエロと化していく・・・・。
情けなさに、少し憐れみさえ感じる今日この頃。
ISBN:4198614423 単行本 宮部 みゆき 徳間書店 2001/11 ¥1,680

あなたの悪い夢、退治します!!

あなたは悪夢にうなされる夜がありますか?
得体の知れない恐怖に怯えていませんか?
そして、夢の中で誰かに助けを求めた事はありませんか?

「お望み道り、助けに来てやったぜ」

あなたの夢に巣食い、あなたの人格を乗っ取ろうとする意識体と戦い、捕獲する賞金稼ぎ。
その名もドリームバスター

16歳のドリームバスター・シェンと師匠のマエストロが、あなたを救う為に戦います。

アクションファンタジー巨編第一弾。

これは本当に痛快な物語です。
夢の中に助けにきてくれるなんて、なんかイイV
悪夢の影には、潜在意識の中に、なんらかのトラウマや問題があるんですよね。
そこにつけこまれた人々を救いにやってくるヒーローがいるわけですよ。
ま、賞金稼ぎなんですけどね(笑)

シェンの生い立ちはかなりシビアだし、物語にはまだまだ謎が沢山あるし、実はなかなかにシリアスな展開になったりします。
かなり期待のシリーズ!!

ちなみに表紙/挿絵は十二国記で有名な山田章博さん。美麗(キラキラ)

ICO −霧の城−

2004年7月7日 読書
ISBN:4062124416 単行本 宮部 みゆき 講談社 2004/06/16 ¥1,890

霧の城が呼んでいる。時は満ちた、生贄を捧げよと。

何十年かに1人生まれる、小さな角の生えた子供。
イコは、生まれながらに生贄になる事を運命づけられた子供だった。
13歳のある日、角は一夜にして伸び、はっきりとその姿を表す。それが「生贄(ニエ)の刻(トキ)」。
運命にその身を委ね、すべてを受け入れようとしたイコは、連れて行かれた城の中で、鋼鉄の檻に囚われた少女と出会う。

少年は、少女の手をとった。
そして、運命に抗う事を決意した。

「ぼくが君を守る。だから手を離さないで」

同名ゲームを下敷きに、宮部さんが独自の世界観をもって再構築した渾身の作品です。
宮部みゆきさんと言えばミステリーと思ってしまうと思いますが、最近はファンタジー作品も多数書かれ、どれも高い評価と人気を得ています。
この作品も単なる冒険ストーリーに終わらず、人の罪や悲しさと言った奥の深いところまで描かれている一級の作品です。
少年と少女が手を取り合い、進んでいく。
こんなシンプルな事が、この作品の根本であり、テーマになっています。素敵だと思いませんか?

運命に抗う事も、また運命。

黒祠の島

2004年6月24日 読書
ISBN:4396207085 新書 小野 不由美 祥伝社 2001/02 ¥930
ISBN:4396331649文庫小野不由美 祥伝社 2004/06 ¥690

作家、葛木志保が失踪した。
調査事務所の式部剛は、顧客であった葛木の行方を追い、彼女に縁があるという「夜叉島」へと辿り着いた。
その島は、明治以来の国家新道から外れた「黒祠の島」だった。
非協力的で、本当の事を何ひとつ語ってはくれない島民達。
神社の樹に逆さ磔にされた全裸女性の死体。
そして、謎の連続殺人。
この島で一体何が起こっているのか。
ファンタジーやホラー等のジャンルで圧倒的支持を受ける著者が満を持して送る初の本格推理!

久々に手に汗を握りました!
著者独特のホラータッチが生かされつつ、本格推理として読者を唸らせてくれる、そんな作品です。
禍禍しい雰囲気が、まさに「推理小説」と呼ぶに相応しい。
「嵐の夜、孤島で巻き起こる猟奇殺人!」
ラストまで一気に読ませます。
ISBN:4043539010 文庫 加納 朋子 角川書店 2000/05 ¥560

堀井千波は、引越しの準備をしている最中に、見覚えのない1冊の本を見つけた。
タイトルは「いちばん初めにあった海」
ページをめくると、その間から未開封の手紙が滑り落ちた。
差出人は「YUKI」だが千波には心当たりがない。
手紙には「私も人を殺した事があるから」という言葉が・・・。
「YUKI」とは一体誰なのか?
千波は過去の記憶を遡る・・・。
それは彼女の心の傷を癒すための旅でもあった・・・。
*同時収録「化石の樹」

登場人物の心が(特に女の子特有の)本当によく理解出来ます。
傷付いた心がどうやって再生されていくのか。
ミステリーとしてドキドキしつつも、人間ドラマとして感動出来る。
同時収録の「化石の樹」も、共通の重要な人物が登場します。
2つのミステリーは、両方読んで初めて物語が完結する、という感じです。
心が疲れている時には、この作品をオススメしたいですね。
ISBN:410401303X 単行本 小川 洋子 新潮社 2003/08/28 ¥1,575

通いの家政婦の「私」と阪神タイガースファンの10歳の息子に、世界が驚きと喜びに満ちていることをたった1つの数式で示したくれた『博士』
彼は、記憶が80分しか持続しない障害を持っている。
しかし、彼の与えてくれる数式は、すべてが驚きと輝きで溢れていた・・・。

話は淡々と進んでいきますが、何故か心が揺り動かされます。
家政婦の「私」のまっすぐな気持ち、10歳の息子の純粋な眼差し、そして博士の透明な心。
読み終わった時には、心が透き通った気がしました。
たくさんの涙が出た。
博士が愛してくれた「私」の息子。
博士が「√(ルート)」という呼び名をつけてくれた。
どんな数字でも嫌がらず自分の中にかくまってやる、寛大な記号、「ルート」
彼の成長が、桜井には1番嬉しかったです。
思ったとうりに成長してくれた。大きくなっても博士に頭をなでられてくれた。庇護する対象でいれくれた。
そして、ステキな大人になった。
博士、「私」、そしてルート!みんな大好きです。

妄想代理人

2004年6月7日 読書
ISBN:4044250057 文庫 梅津 裕一 角川書店 2004/05 ¥580

いつからか、心にどす黒い思いを抱え、それがいつしか殺人衝動に変わっていく兄。
事件の犯人を偶然目撃し、彼に密かな恋心を抱く妹。
妻の幻を見ては、自分の心に蘇る疑念を打ち壊そうとする父。

世間を揺るがす通り魔「少年バット」
ローラーブレードをはき、金属バットを手にし、野球帽を目深にかぶった少年。
彼は果たして実在するのだろうか?
それとも、人の噂が彼を生んだのか?
3人の家族の密かな願望が妄想に変わった時、恐怖の一夜がやってくる。

これは怖いです。
人の心の闇の部分が強烈に描かれていると思います。
最後の最後で分かった事実。悲しすぎました。
何故こんな事に?
人の心は時に常識では計り知れない結論に達してしまうのですね・・・。
ISBN:4758431027 文庫 江国 香織 角川春樹事務所 2004/05 ¥520

38歳の、画家の「私」。
恋愛が私のすべてであり、時折顔を見せる絶望とも親しい。
妻子持ちの、やさしい恋人。私にとって完璧な恋。
だが・・・
切なく、狂おしい恋の結末は?

うーん。
私にはちょっと分からない世界でした。
まず、主人公の恋人が嫌い。
確かにやさしいんだろうけど、自分の妻と子供達はどうなるのって思うし。
結局不倫なんだし。
やたら詩的な文章が多かったので、物語というより、長い詩って感じですね。
でも、絶望や孤独に関する描写は少し共感出来る部分もありました。
江国さんの他の小説やエッセイは好きなものがあるので、この作品がたまたま私の感覚に合わなかったのだと思います。

恋愛小説って、多分基本的に苦手なんです。
普通の爽やか恋愛ならいいんですが(笑)
不倫の恋愛などは全く受けつけませんので、最初の設定からちょっと桜井には無理がありました。
ISBN:4924751588 単行本 ディスカヴァー21編集部 ディスカヴァー・トゥエンティワン 1997/04 ¥1,260

***目次***
わたし、そして、わたしのまわりの人について
人生について
哲学、そして、人間性について
自然科学とその研究について
倫理、道徳、宗教について
学習、教育について
政治、戦争、平和について
ふたたび、わたし自身について
**********

この本を最初に読んだのは多分5〜6年くらい前だと思いますが、何かあるとこの本を読み返しています。
いやな事や辛い事があった時とか、何か転機があった時に。
自分が思いもよらなかったような言葉がいろいろとあって、初めて読んだ時にはとても感動しました。
目からウロコが落ちるってこういう事なんだと思います。
自分の人生について考えたくなった時、アインシュタインならではの言葉から、ある種のアドバイスを貰っています。

13階段

2004年4月5日 読書
ISBN:4062108569 単行本 高野 和明 講談社 2001/08 ¥1,680

喧嘩がきっかけで、相手を殺してしまった三上純一。
2年足らずの服役生活の後、仮釈放となった青年に持ちかけられた「仕事」
それは、記憶を失った死刑囚の冤罪を晴らす事だった。

樹原亮が凶悪殺人犯とされたのは、22歳の時。
しかし、彼はバイク事故でその前後の記憶を失っていた。
逃走途中の事故だと考えられたが、樹原自身は全く記憶がない。
状況証拠と不完全な物的証拠のみですべてが判断され、言い渡された判決は「死刑」
しかし、本当に彼の犯行だったのか!?
死刑囚となり、今や32歳となった樹原。
もう一刻の猶予もない・・・。
---第47回江戸川乱歩賞受賞/2003年2月映画化---

この作品は、とにかく読み始めたら止まらない。
ページをめくる時にこれだけドキドキする作品はめったにないと思います。
人を殺してしまった者の苦悩。家族を殺された者の苦悩。犯罪者の家族の苦悩・・・。
人が人を罰するとはどういう事か。死刑とは正しいものか。
死刑があるという事は、その死刑を執行しなければならない者もいるという事。
すべての苦悩が、この作品から感じられます。

絞首台の代名詞「13階段」
死刑囚は、廊下を歩く足音が、自分の部屋の前で止まらない事をひたすら願う。何故ならそれが、死への迎えだから。
もし、無実の人間がいて、毎日その”お迎え”に怯えて暮らしているとしたら?
今現在、本当にそんな人間がいないと、断言出来るのでしょうか?

蛇にピアス

2004年4月2日 読書
ISBN:4087746836 単行本 金原 ひとみ 集英社 12/2003 ¥1,260

第130回芥川賞受賞作。
ピアッシングや刺青などの身体改造を題材に、現代の若者の心に潜む不気味な影と深い悲しみを、大胆な筆致で捉えた問題作。埋め込んだピアスのサイズを大きくしていきながら、徐々に舌を裂いていくスプリットタン、背中一面に施される刺青・・・

この作品は、少し読むのを躊躇いました。
芥川賞受賞作品という事で興味を持ち、本屋で見かけてパラパラと読んだ時に、あまりにキツイ・キワドイ描写に思わず嫌悪感を感じてしまったから。
新聞の投書で、ご年配の方の「読むに耐えない描写が多く・・・」という意見をよく目にしてもいました。
でも、今日本屋で見かけた時、読んでみよう、と思った。
結果。何故かいい作品に思えてしまった・・・・。
確かに、私にとって許容範囲を超える描写も多かった。でも、この作品のテーマはそんな事じゃなくて、もっと別のところにあったから。
そして、この著者自身に興味を抱きました。

ちなみに、この作品を読んでいる時にビジュアル的に思い浮かんだのは「NANA」で有名な矢沢あいさんのイラスト。同意見の方、いらっしゃるのではないですか?
ISBN:4167106884 文庫 松本 清張 文芸春秋 07/2003 ¥620

芦村節子は奈良の唐招提寺を訪れた時、芳名帳に今は亡き叔父・野上顕一郎の独特な筆跡に酷似している名前を見つけた。
大戦中に外交官だった叔父は、中立国に駐在して任務に従っているうちに過労となり、胸を患って亡くなった。その叔父の書く文字は、なかなか人には真似出来ないようなくせがあり、節子はよく覚えていたのだ。
もしかしたら・・・有り得ない疑いが、彼女の心をよぎる。
顕一郎の娘である久美子は取り合わないが、久美子の恋人である新聞記者・添田彰一はその話に興味を持ち、独自に調査を進めるうちに、久美子の父がまだ生きているのではないかとの疑惑を抱くようになるのだが・・・。

これは、国際外交の裏舞台を描くと共に、普遍的な親子の愛情を描いているように思われます。
ミステリーであり、深い人間ドラマでもある。
ハラハラドキドキする早い展開ではなく、1歩づつ踏みしめるような印象。
かなり昔の作品ですが、全然古びていない。普遍的なテーマに、古いも新しいもないのかもしれません。
「球形の荒野」そういう意味だったんだ・・・。
深いです。
ISBN:4101253358 文庫 梨木 香歩 新潮社 ¥362

コウコは、寝たきりに近いおばあちゃんの深夜のトイレのお世話を引き受ける事で、熱帯魚を買う事を許された。
それからというもの、水槽のある部屋で、おばあちゃんはまるで少女の頃に戻ったように不思議な声でコウコと話しをするようになった。
ある日、水槽の中で惨い光景が繰り広げられているのを見てしまった2人。
そしてこれが、おばあちゃんの少女時代の切ない記憶を呼び起こすきっかけになったのか・・・。

これは、なんだかほろ苦いお話ですが、胸にじんときます。
梨木さんの書く小説は、いつも不思議な空間があって、あの世とこの世の境があやふやになっているような気がしたり、時間を超えて、いろんな思いが交差している、本当に不思議なお話です。
誰でも心に引っかかるような小さな出来事が、まるで奇跡のように意味をもつ、そんなお話です。

奇跡の人

2004年3月27日 読書
ISBN:4101270228 文庫 真保 裕一 新潮社 ¥743

31歳の相馬克己は、8年前、酷い交通事故で1度は脳死判定をされかかったが奇跡的に命を取り留め、驚異的な回復を遂げた。
そんな彼を、他の入院患者らは「奇跡の人」と呼ぶ。
しかし、彼は事故以前の記憶を全て失っていた。
8年間のリハビリ生活を経て、亡き母の残した家に1人で帰った克己は、自分の過去を示すものが全て処分されている事を知る。
何故?自分は一体過去に何をしたのだろう?
何故母は何も教えてくれなかったのか・・・。
過去の自分を必死で追い求める克己。
そして彼の見つけた真実とは・・・!?

記憶を失うという事は、とても辛い事だろうと思う。
経験した本人でないと分からない辛さやもどかしさでしょう。
ましてや、この主人公は言葉や感情もまた1から覚えなおす事になったのだから。
忘れた方がいい過去もあるかもしれない。
でも、何も思い出せないと人間はとても不安になる。
自分は一体どんな人間だったのか。
残酷な事実が突き付けられるかもしれない。
でも知りたい。知らなきゃいけないと思う。

ラスト、じんわりと感動します。
母は強し。そう思いました。

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